第一学習社『高等学校 標準 言語文化』/考査対策
古文は語意と助動詞の判別、現代文は心情の転換点の追跡が問われます。羅生門は教科書P68・1行目〜P73・7行目(冒頭〜老婆の告白)に範囲を限定。すべての設問に「なぜその答えになるか(根拠)」と「試験場で迷わないための判別法(覚え方)」を付けました。
本 文
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。名をば、さぬきの造となむ1いひける。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける2。あやしがりアて、寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうイてゐたりウ。
翁言ふやう、「我朝ごと夕ごとに見る竹の中におはする5にて、知りぬ。子となりたまふべき4人なめり3。」とて、手にうち入れて、家へ持ちて来ぬ7。妻の嫗に預けて養はす6。うつくしきこと限りなし。いと幼ければ、籠に入れて養ふ。
竹取の翁、竹を取るに、この子を見つけて後に竹取るに、節を隔ててよごとに黄金ある竹を見つくること重なりぬ。かくて、翁やうやう豊かになりゆく。
この児、養ふほどに、すくすくと大きになりまさる。三月ばかりになるほどに、よきほどなる人になりぬれば、髪上げなどさうして、髪上げさせ、裳着す。帳の内よりも出ださず、いつき養ふオ。この児のかたちのけうらなるエこと世になく、屋の内は暗き所なく光満ちたり。翁、心地あしく苦しきときも、この子を見れば、苦しきこともやみぬ。腹立たしきことも慰みけり。
翁、竹を取ること久しくなりぬ。勢ひ猛の者になりにけり。この子いと大きになりぬれば、名を、三室戸斎部の秋田を呼びてつけさす。秋田、なよ竹のかぐや姫とつけつ。
〔注〕三寸=約九センチメートル。/さうして=あれこれ手配して。/髪上げ・裳着=女子の成人の儀式。/三室戸斎部の秋田=命名を職とした人。/勢ひ猛の者=権勢の盛んな者。
出題範囲:教科書 P68・1行目 〜 P73・7行目(冒頭「ある日の暮方の事である。」〜 老婆の「鬘にしようと思うたのじゃ。」まで)
本 文 抜 粋(範 囲 内)
【A】ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。/広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀①が一匹とまっているa。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
【B】この二三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか饑饉②とか云う災がつづいて起った。そこで洛中③のさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹がついたり、金銀の箔がついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪の料に売っていたと云う事である。(中略)その荒れ果てたのをよい事にして、狐狸が棲む。盗人が棲む。
【C】だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した。
【D】どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑はない。選んでいれば、築土の下か、道ばたの土の上で、饑死④をするばかりである。(中略)下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人になるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
【E】下人は、大きな嚔⑤をして、それから、大儀そうに立上った。夕冷えのする京都は、もう火桶⑥が欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗⑦の柱にとまっていた蟋蟀も、もうどこかへ行ってしまった。
【F】それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子を窺っていた。(中略)下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと、高を括ってbいた。
【G】(楼の内には)檜皮色の着物を着た、背の低い、痩せた、白髪頭の、猿のような老婆がいた。その老婆は、右の手に火をともした松の木片を持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。(中略)下人は、六分の恐怖と四分の好奇心cとに動かされて、暫時は呼吸をするのさえ忘れていた。(中略)老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱をとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。
【H】その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。――いや、この老婆に対すると云っては、語弊dがあるかも知れない。むしろ、あらゆる悪に対する反感eが、一分毎に強さを増して来たのである。この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、饑死をするか盗人になるかと云う問題を、改めて持出したら、恐らく下人は、何の未練もなく、饑死を選んだ事であろうf。それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片のように、勢いよく燃え上り出していたのである。
【I】下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへねじ倒した。丁度、鶏の脚のような、骨と皮ばかりの腕である。/「何をしていた。云え。云わぬと、これだぞよ。」(中略)けれども、老婆は黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球が眶の外へ出そうになる程、見開いて、唖のように執拗く⑧黙っている。これを見ると、下人は始めて明白に、この老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足gとがあるばかりである。
【J】すると、老婆は、見開いていた眼を、一層大きくして、じっとその下人の顔を見守った。眶の赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。(中略)その喉から、鴉の啼くような声が、喘ぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、鬘にしようと思うたのじゃ。」
〔注〕料(しろ)=材料。/遑(いとま)=ひま。/築土(ついひぢ)=土塀。/容子(ようす)。/暫時(ざんじ)=しばらくの間。/虱(しらみ)。/眶(まぶた)。/唖(おし)=口のきけないこと。/鬘(かつら)。
記述問題は模範解答と照合し、○(満点)/△(半分)/×(0点)を自分で押してください。押すと得点に反映されます。